お久しぶりです。リーガル漢字担当の網本です。
今日はいつもの漢字の形の話しから少し離れて、漢字の意味の違いのお話をしたいと思います。
法的には「押印」と「捺印」はどう違うのでしょうか。
なんとなく印象では「押印」は「記名」とセットで「記名押印」、「捺印」は「署名」とセットで「署名捺印」という形で使われることが多いような気がします。
それでは、e-Gov(イーガブ)の「法令データ提供システム」を使って調べてみましょう。
一般的な用語なので、検索対象を「憲法・法律」に絞ります。
法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi
検索指定用語 「署名押印」 AND検索(憲法・法律)
該当件数 22 件
検索指定用語 「署名捺印」 AND検索(憲法・法律)
該当件数 7 件
検索指定用語 「記名押印」 AND検索(憲法・法律)
該当件数 70 件
検索指定用語 「記名捺印」 AND検索(憲法・法律)
該当件数 7 件
一番多いのは 「記名押印」の70件、次が「署名押印」の22件 で、「署名捺印」「記名捺印」はそれぞれ7件ずつしかありません。つまり「捺印」という言葉自体があまり使われていない、ということなのですね。ちなみに「捺印」だけで検索しても31件しかヒットしません。「押印」は570件です。
そもそも「押印」と「捺印」は同じ意味=単に印をおす(押す/捺す)ということです。「押捺」(おうなつ)という言葉があるくらいですから。漢字の意味としては「捺」は「手で押しつける」ということで「押」より狭い意味のようです。
用語の定義や使い分けには厳格なはずの法律の条文で、「押印」と「捺印」が統一されておらず、同じような意味で使われているのはなぜでしょうか。それは「捺」は常用漢字に含まれていないからです。
昭和56年10月1日に「昭和56年内閣告示第1号」として常用漢字表が告知されたのに伴い出された通知、「法令における漢字使用等について(通知)」(昭和56年10月1日内閣法制局総発第141号)の別紙参考資料「法令用語改正要領」(昭和56年10月1日改正)には、「常用漢字表にはずれた漢字を用いたことば」の言い換えの例として「捺印→押印」という記載があります。昭和56年以降、原則としては法令で「捺印」という言葉は使われなくなった、ということですね。
ちなみに「署名」は自署、「記名」はゴム印を押したり、プリンタで印字したりしたもの、という明らかな違いがあります。ただし、記名にも捺印すれば署名と同じとみなす、とされるケースがあります。
明治三十三年法律第十七号(商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律)
商法中署名スヘキ場合ニ於テハ記名捺印ヲ以テ署名ニ代フルコトヲ得
(現在では会社法で個別に「署名又は記名押印」のような形で記載されています。)
「法令データ提供システム」を使えば、どんな言葉がどの法律に使われているか、を調べることが出来ます。憲法・法律で「愛」が出てくるものは46あります。「恋」は2つしかありません。どちらも多くは地名がヒットしているのですが「恋」のうち1つは地名ではありません。ぜひ調べてみてください。