字種と字体と書体と。
お久しぶりです。リーガル漢字担当の網本です。今日は漢字の形=字体のお話をしたいと思います。
「竜」と「龍」はどちらも「りゅう」という「同じ漢字」です。これを常用漢字表の定義に沿って説明すると「竜と龍は字種が同じで字体が異なる」ということになります。「同じ字だけど、形が違う」といった感じでしょうか。「竜」は常用漢字で「龍」は常用漢字に含まれない「表外字」ですが、人の名前に使うことはできます。ですから「龍馬」も「竜馬」も子供の名前に使えますが「別の名前」です。龍馬は海援隊で竜馬はゲッターロボです。
常用漢字の前身である当用漢字が策定された時に、難しい一部の文字の元々の字体(正字体)の代わりに、略字体を正式な字体(新字体)として採用しました。常用漢字においてもこの新字体は継承され、大幅な字体の簡略化が行われました。例えば、しんにょうの点を1つにしたり、くさかんむりを四画ではなく三画にしたり、といったものです。しかしこれらの字体の変更は、戸籍にまで遡って反映されるわけではなく、戸籍上の字形が常用漢字の字形と異なる、という事態を招きました。多くの常用漢字が、新字体と正字体との異なる字体を持つようになってしまったのです。そればかりか、この常用漢字の簡略化の規則を表外字にまで当てはめる、「拡張新字体」と呼ばれるものまで出てきて、字体はさらに増えてしまいました。
戸籍ではこれらの「正しい字体」以外にも、辞書的には正しくない誤字や俗字といったものまで現実に許容されています。「龍」の字にも一画目が横棒だったり、つくりに点が打たれていたり、といったバリエーションがあります。このため戸籍をコンピューター化するために、戸籍統一文字というものが作られており、約5万6千字の文字がカバーされています。ここでは文字は字種ではなく字体ごとに別の物として取り扱われています。
文字のデザインには字体とは別に「書体」というものがあります。手書きの場合は篆書・隷書・草書・行書・楷書など、印刷の場合はいわゆる文字フォント・明朝体やゴシック体などといったものです。字体が同じ文字ならば、書体が違っても同じ文字のはずですが、デザイン的には微妙に別の物として見えることもあります。
戸籍はもともと紙に手書きだったわけですから、こういった事情からいろいろな字体の文字が別物として取り扱われてきた、ということではないかと思います。文字を探す場合、パソコンの変換では出てこない時には「その文字がどういう種類の文字なのか」を把握することから…ということになるのですが、これは自力でやるにはかなり難しいです。しかし法務省の「戸籍統一文字情報」で検索すれば、かなりのことがわかります。とはいえ、この検索がまたなかなか大変なんですけどね。次の機会には、戸籍統一文字情報の活用法などをお話しできればと思っています。
文化庁 | 表外漢字字体表
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/kakuki/22/tosin03/index.html
法務省:子の名に使える漢字 - 人名用漢字表
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji86.html
法務省 戸籍統一文字情報 トップ
http://kosekimoji.moj.go.jp/kosekimojidb/mjko/PeopleTop